国内では、M&Aを通じてコングロマリット経営を行う動きが活発化しています。本記事では、コングロマリットの特徴やメリットなどについて解説していきます。
コングロマリットとは
コングロマリット(conglomerate)は、異なる産業やビジネス部門を所有・運営する企業の組織形態を指します。日本語で「複合企業体」とも訳されます。
例えば、自動車製造、食品製造、不動産、エンターテインメント、金融など、異なる産業でそれぞれ関連の低い事業を所有・運営する企業グループが例に挙げられます。
厳密には、多業種にまたがる企業体を指しますが、同業種で構成されたグループ企業体もコングロマリットと呼ばれることがあります。
コングロマリット企業の例
国内企業のコングロマリット企業の概要を例に挙げます。
楽天グループ
楽天グループはECモールを中心に、金融、通信、旅行、エンタメなど様々な企業をグループ傘下に加え、現在は国内外で70以上のサービスを提供しています。
2000年の上場以来、スピード感を持ってコングロマリット化による成長を実現している背景には、時代のニーズを捉え、M&Aを積極的に進めてきたことが挙げられます。
JRグループ
日本国内の鉄道運輸事業を中心に展開するJRグループは、鉄道運輸事業のほか、不動産開発、商業施設運営、観光、ホテル運営など、多岐にわたる事業分野で事業を展開し、日本国内の交通・観光産業において大きな影響力を持っています。
JRグループは、多角化したビジネスモデルを通じて国内外で成功を収めています。
動画では、JRグループのコングロマリット経営についてわかりやすく解説しています。
コングロマリットの主なスキーム(手法)
コングロマリットを形成する際に用いられる主なスキーム(手法)は、以下の通りです。
買収
企業の株式取得を通じて経営権を獲得し、子会社化するのが買収です。後述の合併(吸収合併)と異なり、被買収会社は存続します。
M&Aでは株式を100%取得するケースが多く、資本提携に比べて資本の結びつきが強固になるため、コングロマリット内の企業同士の結束が強まる傾向になります。
資本提携
資本提携とは、将来的なM&Aや合併などを見据え、一方(もしくはお互い)が他方の株式を保有することで資本関係を構築し、互いに業務面や資金面で協力し合うことを指します。
経営の独立性を保つため、譲渡する株式を発行済株式総数の1/3未満に抑えるのが一般的です。お互いに経営上の独立性を保ちながら、強固な関係を築けるのが特徴です。
合併(吸収合併・新設合併)
合併とは、複数の組織や会社を法的に1つに統合ることを指します。独立した企業同士で合併が行われる場合や、同じグループ内の再編で行われるケースがあります。
合併会社が被合併会社を吸収する「吸収合併」と、被合併会社をすべて消滅させて新設合併会社を設立する「新設合併」の2つがあります。
コングロマリットのメリット
コングロマリットを形成する主なメリットは、以下の通りです。
シナジー効果を狙いやすい
コングロマリット企業は、様々な業種、ビジネスを保有するため、単一の事業を展開する場合に比べ、各事業間で事業シナジーやコーポレートシナジーなどシナジー効果の創出を狙いやすくなります。
事業シナジーは、技術やノウハウを共有することで新規事業やサービスの創出につなげること、コーポレートシナジーはグループのブランド力や強みを活かした営業、採用活動、資金調達などが挙げられます。
このようにコングロマリットを形成したことで、グループ内でシナジー効果が発揮され、企業価値が高まる状態を「コングロマリット・プレミアム」と呼びます。
この成功例が日立製作所です。あらゆるモノがインターネットと繋がるIOTの時代を迎え、多彩なグループ企業を抱える日立製作所では、デジタルソリューション事業を中心に「OT(制御技術)」と「IT(情報技術)」と「プロダクト」を組み合わせたサービスの提供を開始します。その結果、グループ内でのシナジー効果を生み出すことに成功しました。
経営リスクを分散できる
コングロマリット企業は様々な業種、ビジネスを展開するため、もし一部の市場環境や事業会社の収益が悪化しても、その他の事業でカバーすることができます。つまり、経営のリスク分散ができる点も、大きなメリットとして挙げられます。
リスク分散に成功したコングロマリット企業の代表がソニーです。ソニーはもともと「ウォークマン」を世界的に大ヒットさせたテープレコーダーなどの製造会社でした。しかし、コングロマリット化した現在のソニーの主力事業は「ゲーム機の販売及びそのネットワークサービス」です。また、金融部門も順調に伸びており、かつて主力だった電気製品部門に追いつきそうな勢いで伸びています 。このように、ソニーグループはコングロマリット化したことにより、各事業部門のリスク分散に成功しています。
中長期的ビジョンを描きやすい
コングロマリット型戦略は、様々な市場へ進出するため、短期間でのシナジーや成果を期待することは困難です。しかし言い換えると、企業全体で持続的な成長を図るために中長期の計画、ビジョンを描きやすい点もメリットとして挙げられます。
これは、コングロマリット企業の例にも挙げた楽天グループが非常に得意としているところです。イーバンク銀行 を2009年2月に子会社化し、楽天銀行としてじっくりと再生の道筋をつけ、今ではグループの金融事業の中核をなす大切な事業部に育て上げています。
コングロマリットの注意点
コングロマリットを形成する際の主な注意点は、以下の通りです。
企業価値が低下するリスクもある
複数の事業を展開することで、主力事業に経営資源を集中させることは難しくなります。また、想定していたようなシナジーが発揮できず、複数の事業が共倒れに終わる可能性も考えられます。
その結果、市場での競争力、株価も低下し、資金調達が難しくなってしまう状態を「コングロマリット・ディスカウント」と呼びます。
ガバナンスの低下に注意する必要がある
各事業の独立性が高く、親会社が各社すべての事業に精通していない場合、経営を適切に監視・指導できず、ガバナンスの低下を招く可能性が考えられます。
ガバナンス低下の結果、不正や品質低下などの事態が起きることを回避するため、ガバナンス強化の対策を入念に講じる必要があります。
また、各社が独立しているため、コミュニケーションを取る機会が十分になく、グループ全体の情報が伝わりづらくなる可能性もあるため、経営陣はグループ内のコミュニケーションの取り方に気を付ける必要があります。
短期的な経営戦略に不向き
メリットで述べた通り、様々な市場でビジネスを展開していくため、短期的にシナジーや成果を生み出すことは困難です。中長期的なビジョン・戦略で事業を進めていくことが求められます。
コングロマリットとコンツェルンの違い
企業の集合体を表す言葉として「コンツェルン」があります。これは「グループ(Konzern)」を意味する言葉で、持ち株会社などを頂点にして子会社群・孫会社群を形成し、市場の独占を目的とする企業体を指します。
コングロマリットが事業の多角化を目指すのに対し、コンツェルンは市場を支配・独占することを目的としています。
日本では戦前の「財閥」がコンツェルンに該当しますが、GHQにより解体され、その後独占禁止法によって持ち株会社の設立は禁止されました。しかし、この法律はM&Aを通じて組織再編を行うための障害となっていたため、1997年に改正され、持ち株会社の設立が解禁されました。
コングロマリットと、その他多角化戦略の違い
企業の多角化戦略は、コングロマリットの他、以下に分類できます。
①水平型多角化戦略
水平型多角化戦略は、既存の顧客基盤やブランド価値を活用し、関連する市場で異なる事業領域に進出する戦略です。
例えば、食品小売業界で成功している会社が、新たに食品配達サービスを提供する事業を始める場合、これは水平型多角化です。
既存の事業で得られたノウハウを転用するため、リスクを抑えてシナジー効果の創出が期待できるでしょう。
②垂直型多角化戦略
垂直型多角化戦略は、既存事業の川上または川下の領域に進出し、成長拡大を狙う戦略です。
例えば、農業機械の製造会社が、農産物を販売する小売事業に進出する場合、これは垂直型多角化です。
既存の顧客のニーズが掴みやすいアドバンテージがあるため、リスクを抑えて展開することができるでしょう。
③集中型多角化戦略
集中型多角化戦略は、既存の技術・ノウハウを活かした新商品を、新たな市場に投入する多角化戦略です。
集中型多角化は、既存の強みをさらに発展させ、市場での競争優位性を追求するために使用されます。
デジタルカメラのセンサーを医療技術に転用する例などが、この集中型多角化戦略にあたります。既存の技術と関連性の高い商品を製造するため、開発費削減などのシナジー効果を生みやすい戦略といえるでしょう。
コングロマリット型M&Aを成功させるには
コングロマリットによって多角化戦略を進めるためには、グループ内の統合をできるだけ早く確実に行うことが大切です。
技術もノウハウも市場も異なる企業を束ねて統括し、シナジー効果を生み出すためには、M&A後のPMI(ポスト・マージャー・インテグレーション:M&A後の統合プロセス)が成否を握ると言っても過言ではありません。PMIに関する知識やプロセス管理は高度な専門性を要するため、外部のPMI専門家の協力が不可欠です。
終わりに
以上、コングロマリットについてご紹介しました。経営のリスクヘッジに長けたコングロマリットは、これからの時代を切り拓くために相応しい戦略です。
しかし、統合にグループ全体としてシナジーを生み出し、ガバナンスを効かせるにはM&Aの統合プロセス(PMI)の成功が重要になります。